痛みは不安
がんを患っておられると、身体の変化には一般に敏感になることも多いでしょう。
ある患者さんは、身体が次から次へと痛くなるとおっしゃいます。
その中には、明らかにそのがんが転移「しない」だろう部位の痛みも多いです。
ご希望に応じて検査をすると、やはり転移などの病変はありません。
その時は安心されるのですが、しばらくすると次からは別の場所が痛くなります。
「今度こそは転移かもしれません……」
そう仰る患者さんの顔は浮かないです。
ただ都度検査をしても、何らの病変がないのです。
結論から言えば、不安が痛みを作り出しています。
検査をすると、しばらくは安心されるのですが、根本が解決していないので、身体の変化にはとても敏感で、すぐに「転移か?」「進行か?」という不安と心配が心を覆います。
もちろんこのような場合も、緩和ケア医や精神科医などの精神科系の医師が継続的に関わることで、緩和する余地があります。
そしてこのような痛みに、安易に医療用麻薬を用いてはいけません。
がんの患者さんだからといって、がんの痛みとは限らないのです。
まず最初のポイントは、「痛みの原因」を担当医にはっきり尋ねることです。
しかし担当医の状況によっては、あまり明確な回答がないこともあります。
その際は、生活の質を損ねていることをお伝えし、重ねてアセスメントを尋ねることだと考えます。
痛みが慢性化するといっても……
一般的には、がんの患者さんに継続する痛みだと、がんに伴う痛みも考えなくてはいけません。
しかし、痛みが慢性化しているといっても、がんの痛みとも限りません。
ある高齢女性の患者さんは、腰痛が骨転移痛として治療される寸前でした。
しかし画像をチェックすると、どこにも骨転移はなく、むしろ腰椎の変形が目立ちました。
結局、変形性腰椎症と診断されました。
骨転移痛ならば、医療用麻薬をしっかり効かせることが重要です。
一方で、この患者さんの痛みは変形性腰椎症なので、第一に医療用麻薬治療というわけではありません。
このように、原因によって治療も変わりますので、アセスメント(病態の評価と判断)が必要なのです。
最終的には、画像検査を行って、がん由来なのかどうかを確認することが大切です。
2つ目のポイントとしては、痛みがある部位の画像検査を行っているかを担当医に尋ねて、もししていないようならば検査をお願いしてみることです。
医療被曝はありますがCTや骨シンチ、被曝はないですが検査時間が長めのMRIなどが、痛みの原因を突き止めるのに有効な検査群です。
X線検査(レントゲン検査)は、CT等と比べると、なかなか一般臨床医が症状を突き止めるのには情報量が厳しい場合も多くあります。
こういう痛みはがん
がんの患者さんの痛みの場合で、こういう痛みはがんから(だろう)というものを述べます。
もちろん自己判断はほどほどにし、担当医や専門家と相談しましょう。
● がん治療で減る痛み
がんの痛みは、抗がん剤が効くと、軽減します。
画像上の変化が顕著ではなくても、痛みは大きく改善したりもします。
このように治療で減る痛みは、がんの痛みの可能性が考えられます。
なお悪性リンパ腫のような血液のがんの場合は、一般に、肺がんや膵がんのような固形がん(血液のがんではないがん)よりも、痛みの減り方が顕著です。
● 痛みが増えるのと、病勢の悪化が並行している場合
がんの痛みは、一般的には、ある程度進行とリンクしています。
あるいは活動性とリンクしています。
画像上や腫瘍マーカーなどで、がんの進行が確認されている状況で、少しずつ痛みが出現・増悪しているような場合は、やはりがんからの痛みを考える必要があります。
● 耐え難い痛み
一概にいえない部分もありますが、「今まで感じたようがない激痛」が自覚されるようならば、それは骨転移痛や神経障害性疼痛(神経の痛み)を考えねばなりません。
それに限らず、耐え難い痛みを来たす場合には、原因検索が必要になります。
担当医や専門家に相談すべきでしょう。
何週間も続くような痛みは、やはり原因検索をすることが良いでしょう。
3つ目のポイントとしては、慢性化した痛みや、上述したようながん関連をうかがわせる痛みがある場合は、いつからどのような痛みがあるのかを紙などにまとめておき、担当医にしっかりと伝えることだと存じます。
まとめ
患者さんからすると、「その痛みの原因はがんです」と言われることは確かに苦痛です。
しかし総合的に考えると、「そうかもな」と思いながら我慢し、痛みに苦しむことのデメリットが上回るでしょう。
適切に治療すると、嘘のようにがんの痛みは改善します。
● 原因を尋ねる
● 画像検査の結果を聞く、あるいは検査の施行を希望する
● 痛みが持続したり、前述したような「がん」関連を疑わせたりするようならばしっかり伝える
上記を行ってみると良いでしょう。
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