がんは放置しても痛い
2回にわたって、末期がんと痛みについて紹介してきました。
「末期がんの痛み」と検索して驚いたことがあります。
下記のようなサイトが1番目や2番目に表示されるのです(2019年3月現在)。
最初に確認しておきますが、私はこのサイトを運営している方や上記の記事に載っている中村仁一医師に関して批判という意味で次のことを書くわけではありません。
過度な一般化からは漏れてしまう方が必ずいます。
痛くないはずと信じて放置して、痛みが出た場合は大変です。
その点で一般化は注意すべきと思ったので、記します。
老人ホーム等におられる患者さんの例をすべてに当てはめることはできない
記事中にある園は、高齢者の療養施設です。
そこで療養されている方の層はおのずと偏ります。
年齢もしかり、日常生活動作(ADL)もしかりです。
一般的には虚弱性も強い方が、同年齢の方よりは多い可能性があります。
すると、むしろ身体に負担がかかる治療は良くないと考えられます。
このような患者さんには経過観察が合っていたということは言えるでしょう。
ただそれが別の性質を持つ患者さんに本当に当てはまるかということを考えねばなりません。ましてや相対的な若年者には当てはまらない場合も多いでしょう。
またひょっとして、この園で最後まで過ごすことを望んだのは、症状がそれほど強くない方だった可能性があります。
症状が強い方は、治療を求めて転出したかもしれません。
病院入院者のほうに、一般に症状が強い方が偏るのと同じメカニズムが働いている可能性もあります。
おのずとそのような苦痛が少ない方(なので園での最小限の医療でも問題なくいられる)が集まったことも考えられるのです。
すべて放置ならば痛みも少ないということもない
まず緩和ケアがなぜ発展したのかを考えてみてください。
緩和ケアは、源流で言えばもう1世紀以上存在しています。
産声をあげた頃は実質がんは無治療でした。
それでもがん「で」苦しむ方がいたので、緩和ケアの必要性が求められ普及してきたのです。
実際、何十年も前にがんのご家族を看取った方の中には、「相当苦しんでいました」「痛みでのたうち回っていました」と仰る方も少なくありません。
まともながん治療がある以前から、患者さんは苦痛を自覚されていたのです。
もし放置すれば何にも苦痛がないのならば、緩和ケアは発展しなかったはずです。
まずそのような点があります。
そして、私にとって極めて良かったのは、私はホームだけでもなく、在宅だけでもなく、かなりの種類の診療形態で患者さんを拝見してきたことです。
一般病院、大学病院、在宅及び高齢者の施設、そしてホスピス。
すべてで常勤勤務経験があります。
それなので、各々の施設での患者さんの層の偏りを知っています。
症状が強い方はなかなか退院できないので、在宅等で最期を迎えられる率は下がります。それなので、在宅に帰れる方は一般に症状が軽い可能性があるのです。
そして、そうはいっても、在宅や高齢者の施設で無治療でも緩和ケアが必要な痛みや苦しみが出た方のことは診てきました。
完全放置でも一切苦しくない、耐えられる苦しさだというのは、偏った見方だと感じています。
私のように終末期のがんの患者さんを2000人以上診ていて、緩和ケアが必要ないという医師はいないはずです。
もちろん、高齢者の施設におられるような方の層では、末期がんでも痛みや苦しみが少ないケースがあることは同意できますが、かといって全例でもない、という事実を知っているからです。
緩和ケアは必要です。
例外が必ず起こりうるからです。
その際に緩和ケアのオプションがない医師ならば、大変なことにならないとも限りません。
まとめ
無理な治療や希望に反する治療を受ける必要はないと考えます。
私はご高齢でも「絶対治療すべき」という立場でもありませんし、「絶対やるべきではない」という立場でもありません。
その方に合った選択肢があります。
もちろん経過観察も一つの選択肢です。
ただし、放置療法でも痛みや苦しみは出る可能性は相応にあります。
特に末期が迫れば、です。
それなので、がんに対しては放置することを選んだとしても、いついかなる場合でも緩和ケアのできる医師を付けることを忘れないで頂きたいと思います。