悪性リンパ腫の緩和ケア
によると、悪性リンパ腫は罹患数ががん全体における8位です。
死亡数は全体の9位になります。
一般に高齢になるほど頻度が増えるがんです。60~70歳代が発症のピークで、男女比は3:2、高齢化の影響を受け罹患率は増えています。
以前、固形がんと血液がんの話をしましたが、悪性リンパ腫は血液がんに属します。
悪性リンパ腫にはホジキンリンパ腫と、非ホジキンリンパ腫が大きな2つの分類としてありますが、その他にも細かく分類されます。
非ホジキンリンパ腫の中に多様なリンパ腫があり、悪性度も低悪性度・中悪性度・高悪性度とあります。
悪性度によって進行のスピードが大きく変わりますので、同じ病気とは思い難いほどです。
悪性リンパ腫の体の苦痛症状と緩和ケア
悪性リンパ腫と痛み
悪性リンパ腫は、リンパ球のがん化した病気です。
体中のいたるところにリンパ節やリンパ管があります。
そのため、全身の様々な場所で病変が発生する可能性があります。
頸部や、腋窩(えきか。脇の下)、鼠径部(そけいぶ。またの部分)などにリンパ節の腫れを生じることが多いです。
他にも、消化管や脳などの様々な臓器に病変が発生することがあります。
したがって、病変ができて大きくなった部位の痛みが自覚されることが多いです。
頸部のリンパ節が腫脹(しゅちょう。腫れること)すれば、首の痛みが、腋窩にできればいわゆる“脇の下”が、鼠径部にできれば股の部分が痛くなります。
時に腫瘍は大きくなりますので、そうすると一般に症状も目立つようになります。
痛みの治療は、アセトアミノフェンやNSAIDs、医療用麻薬を用いて行います。各鎮痛薬を併用することも行われます。
医療用麻薬へは反応性が良い場合と、そうでもない場合があります。
ただ、悪性リンパ腫は血液がんです。
抗がん剤が効くと、初回治療時等は開始後数日で痛みが大幅に減じることもあり、固形がん(例えば肺がんや胃がんなど)の感覚だと異例に思えるくらい、抗がん剤が症状緩和に寄与します。
治療への、腫瘍化したリンパ球の反応性が良いので、腫瘍の勢いが急速に削がれるからでしょう。
それなので、固形がんの時は、「抗がん剤治療が効いて、腫瘍縮小→疼痛緩和となるまでには時間がかかるので、医療用麻薬をその間しっかり使いましょう」と説明することが多いですが、悪性リンパ腫の時は、「抗がん剤が効くと速やかに疼痛緩和されることも多いです。その間までは医療用麻薬を使いましょう。抗がん剤の奏効で疼痛緩和されたら、医療用麻薬は減らします」と説明します。説明内容が少々違うのですね。
リンパ節は、しばしば神経の近傍(近く)にあります。
例えば、大動脈周囲リンパ節腫脹は容易に神経叢(しんけいそう。神経が網状になっている部分)圧迫を起こします。
時に難治性の神経障害性疼痛(神経の痛み)を併発し、医療用麻薬治療などの鎮痛薬治療に抵抗性のこともあります。
そのためか、抗がん剤治療が効いている間は良いのですが、最終末期になると有効な抗がん剤がなくなるため、時々高度の難治性疼痛に苦しむ患者さんもおられます。いったんそうなった際の症状緩和は、(あくまで私の経験ですが)しばしば難渋します。
そのような場合も、症状緩和目的の放射線治療や、神経ブロックも行うことができますから、あの手この手で緩和策を考えます。
確かに抗がん剤が効いている間は、疼痛緩和の早さが固形がんの比ではないため、緩和ケアが不要と感じがち(抗がん剤=緩和ケアと感じがち)なのですが、いったん抗がん剤治療ができなくなった際の難治性の痛みの治療に対する反応性の悪さもなかなかのものです。
痛みに関しては、それなので、治療開始前~開始後すぐまでの時期と、終末期が特に緩和ケアの密なる介入が必要だと言えると存じます。
悪性リンパ腫と痛み以外
悪性リンパ腫は全身の多様な部位に病変を形成しますから、出現する症状も多種多様にわたります。
リンパ節の腫大による腫瘤が、リンパの流れを妨げるため、リンパ浮腫を起こしやすいがんです。浮腫はふしゅと呼び、むくみです。
腋窩のリンパ節腫脹は上肢のむくみを、鼠径のリンパ節腫脹は下肢のむくみを出現させます。
リンパ浮腫も抗がん剤が効く間は、リンパ節を縮小せしめて、病態を改善することができます。
しかし次第に抗がん剤の効きが悪くなると、腫瘍が小さくならず、病態の改善は難しくなり、リンパ浮腫も持続的に認めるようになりますので、対処が必要です。
リンパ浮腫は単なるマッサージや漫然とした利尿剤の治療が適していません。
リンパドレナージという特別なマッサージが必要になります。
リンパ浮腫の治療は専門家の関与が重要です。
他にも、できた部位に応じて多様な症状を来すため、医療者には全身の状態把握・理解が必要です。
悪性リンパ腫と心理的な問題、治療に関する問題
悪性リンパ腫は一般に高齢の方に多いがんです。下のグラフが罹患率です。
(出典;がんの統計)
治療に関しては専門的な知識が必要となるため、血液内科医が担当します。
治療の中心は抗がん剤治療(化学療法)等になり、副作用も出ます。
治療に関連した症状を我慢せずに、治療担当医にしっかりはっきり伝えることが大切です。
患者さんにはご高齢の方も多いので、他にご病気を有している場合もあり、老年医学の観点からも全身を診ることが大切になります。
悪性リンパ腫の治療も比較的長期にわたります。病気の性格や治療等で患者さんが理解しなければいけない情報も多いですが、ご高齢の方の場合なかなか詳しく理解するのが難しいケースもあり、ご家族の支援が必要となるでしょう。
私の仕事の性質上、難治性の悪性リンパ腫の患者さんを(血液内科医と)しばしば診療してきました。
治りにくい場合は、ずっと抗がん剤治療を続けることになり、当然治療の副作用もありますし、病変自体の苦痛もあり、「先が見えない」と嘆かれる患者さんもいらっしゃいました。
厳しい経過の場合は患者さんの心理的負担も強くなります。お話をよく伺い、心身のためにできることを探っていきます。
不安や抑うつ、せん妄などの精神症状もよく起こりうるため、必要時は適切な対処を行います。
まとめ
悪性リンパ腫も他のがん種と同様に、様々な苦痛症状を起こします。
痛みはもちろんですが、それ以外の症状にもしっかりとした対処が必要です。
抗がん剤が効いている間は症状も緩和されますが、抗がん剤開始前の時期、及び抗がん剤が効かない時期、効きづらい時期、終末期は症状が抑制されないため、緩和系の薬剤を使用して少しでも症状を軽くする必要があります。
病気の性格上、ご高齢の方も多く、リンパ腫だけではなく全身の状態や心理の状態にも十分な注意を払い、療養を支援します。
悪性リンパ腫は血液がんに属しますが、血液がんでも緩和ケア「併用」ができることを患者さんやご家族が知らないケースもあります。確かに治療が効いている間は身体の症状は抑えられますが、その時期でも心理的な問題や社会的な問題があったり、治療が効きにくくなった時期の身体の症状緩和が必要となったり、緩和ケアが必要です。
苦痛がある場合は遠慮なく緩和ケアの利用をお申し出頂くのが良いでしょう。