肺・気管支カルチノイドをご存知ですか?
ここをご覧の皆さんは、肺カルチノイドをご存じない方もいれば、肺カルチノイドをご自身あるいはご家族が罹患されており、病気を知りたいあるいは症状の和らげ方を知りたいという方がいらっしゃるでしょう。
少し前、肺カルチノイドが話題になったことがあります。
2012年に流通評論家だった金子哲雄さんがこの病気で41歳で亡くなられたのです。
金子さんは生前に病気を伏せる一方で、死後の準備を完璧に進められ、当時話題になりました。
なかなかできることではなく、感嘆した方も多かったです。
肺カルチノイドは、肺がん全体のわずか0.5~1%未満とされています。
診断時の年齢の平均は50代ですが、30代で発症する人もいます。
男女差はほとんどなく、喫煙歴との関連も低いとされています。
肺カルチノイドには種類があり、それがポイントになります。
肺カルチノイドの型を見てみましょう。
肺・気管支カルチノイドのタイプ
総じて一般的な肺がんに比べれば悪性度は低いとされています。
ただそれは、8割を占めるという「定型的カルチノイド」の場合です。
実は肺カルチノイドは、神経内分泌腫瘍に属します。
先日膵臓や直腸などの消化器系に生じる神経内分泌腫瘍を解説しましたが、それと同じ系統の神経内分泌腫瘍なのです。
消化器系に起きる神経内分泌腫瘍が1番多いのですが、肺や気管支にできる神経内分泌腫瘍が2番目に多いです。
肺や気管支にできる神経内分泌腫瘍は以下のように分類されます。
① 定型的肺カルチノイド
② 非定型的肺カルチノイド
③ 大細胞神経内分泌癌
④ 小細胞癌
カルチノイドに属するのは①と②です。
①の定型的カルチノイドにおいては、病気の進行は比較的ゆっくりしています。
早期に発見して手術で切除することによって治るケースも多いとされます。
ある肺カルチノイド切除例の報告では、定型的カルチノイドでは術後の平均観察期間63ヵ月で再発例はなしと良い結果です。
一方で非定型的カルチノイドは定型的カルチノイドに比較して予後に違いがあります。報告によっても差がありますし、また年々改善しているとは考えられます。基本的に、他の人の経過が当てはまらないのが腫瘍で、非定型的カルチノイドにもそれが言えるでしょう。
また、非定型カルチノイド、左側の肺、病理学的リンパ節転移陽性が再発のリスク因子であったとの報告もあります。
なお、定型的カルチノイドと非定型的カルチノイドは病理で区別されます。
下記が診断基準です。
◯ 定型的カルチノイド 核分裂像(10高倍視野) 0-1個 壊死 ない
◯ 非定型的カルチノイド 核分裂像(10高倍視野) 2-10個 壊死 ある(小さい)
核分裂像や壊死の状況が鑑別になるのですね。
肺・気管支カルチノイドと症状
肺の小細胞がんは珍しくないので、非小細胞肺がんと並び私も多数の診療例がありますが、3700人以上のがんの患者さんを拝見していても、肺カルチノイドの緩和ケア診療経験は5例程度です(それでも多いと思います)。
症状に関しては、当初は自覚症状を欠くことが多いです。
先述した金子哲雄さんの場合は呼吸器症状で始まり、発見された時には肺の腫瘍の直径が約9cmと大きい上に、骨転移もあったとのことです。
皮膚転移や頭蓋骨転移の報告もあります。
他にもリンパ節転移は転移例ではよく認められ、肝転移も来たします。
肺の腫瘍自体も進行すれば、呼吸困難(息苦しさ)、咳などの呼吸器症状を来たします。
骨転移や肝転移は、痛みを起こす病態ですね。
呼吸器症状や痛みに関しては、医療用麻薬を用いて症状緩和を行います。
カルチノイドは、カルチノイド症候群という腫瘍からのセロトニン産生を起こし、顔面紅潮、下痢、気管支痙攣等の症状を来たすことがありますが、肺カルチノイドでは必ずしも多くはないです。
肺・気管支カルチノイドの治療と重要な早期緩和ケア その理由は?
肺カルチノイドの抗がん剤治療に対する反応性は良いとは言い難いようです。
参考;Chemotherapy for Lung Carcinoid Tumors
小細胞がんに準じる化学療法が行われます。
カルボプラチン/エトポシド、シスプラチン/エトポシド、シスプラチン/イリノテカン、エベロリムス等が使用されます。
これらの治療は当然のことながら副作用を伴います。
十分な支持療法(治療による副作用に対しての予防策や、症状を軽減させるための治療のこと)が不可欠です。
支持療法が得意なのは、緩和ケア医です。
治療の継続のためには、「いかに楽に治療を受け続けることができるか」が生命線です。
そのため、治療の苦痛を最小化することが不可欠です。
一方で、一般に短い病院の診察時間では、そのサポートが必ずしも充実しているとは限りません。
早期から緩和ケア医やチームに関与してもらうことが重要でしょう。
肺・気管支カルチノイドのまとめ
肺カルチノイドは神経内分泌腫瘍に属します。
定型的カルチノイドの予後は良好ですが、非定型的カルチノイドの予後は良好とも言い難いです。
進行例では転移を来たし、その場所によって様々な症状を来たします。
また、抗がん剤などの治療も副作用を来たすため、しっかりとした症状を抑える治療が必要不可欠です。
治療の担当医とは別に、緩和ケアの専門医師を併診でつけることが良いと考えられます。